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―外界資本に頼らないローブ家は生産業に参画し、膨大な富を得ていた。その為に必要なキャリア(植物学、宝石学、鉱物学)を本家のヒロイン達は各々、1種類ずつ学ぶことを義務づけられていが、去年末の〝新発見〟により生産業は低迷し、残された狩猟による〝原始的な〟資金調達は本家、五女の担当と決まり、佳穂は全ての役務から免れた。こういった諸事情があり、彼女はこの世界でのびのびと、天真爛漫に振舞うことが出来たのである―

パルタルカ入口のBSと町の厳重な警備を見て、佳穂は言った。

「よし!」

この時、彼女の脳裏にはあるひとりの女性が浮かんだのである。
その女性の名前は〝マリー〟。ローブ本家の次女にして、遥か彼方の〝ロネリア遠征隊〟に幾度となく参加し、敵の牽制及び、隊員達の治癒を任務とするプリーストで、ヒロインの称号を持つ。また、植物学を優秀な成績で修めた才女である。お淑やかで優しい彼女は親族一同の憧れの的であり、皆から慕われていた。そんな彼女の言葉を思い出していた―〝戦う時は勇気を出して!でも、時には引く事も必要なの〟―

「ルウくん、撤収よ!」
「ガルゥ(ご馳走は)?・・・」
「あの数の警備兵を見たでしょ?あれではフローラお姉さまでもない限り突破は無理よ。仮によ、仮に私がここで人生の幕を閉じるようなことになったら、あのお父さまに何て言われるか。〝あのバカ娘め、嫁にも行かず逝くとは!〟とか言って泣いてくれるならまだ良いわよ。〝なに~ぃ!ご馳走目当てで玉砕しただと?何たる浅ましい真似をしたんだ!〟とか言われちゃったら、成仏出来ないわよ。それに、お母さまの悲しまれる顔も見たくないしね。ささ、撤収、撤収、戻りましょう」
(ぎゅるる~ぅ♪)
「あ、相当、ご馳走に期待してたのね。取り合えず、温泉まで戻ってから考えましょう」

もときた道を影を潜め、警備兵を迂回しながら温泉へと戻った。

「私は食料の調達をして来るから、ルウくんは一度戻ってね。」

すると、一瞬、ルウは霞んだかと思うと姿を消した。
佳穂が小さな茶色い鞄を開け、いろいろな物が小さく収められている中のひとつ、ドラゴンのアイコンを押すと、たちまちドラゴンが実体化され、彼女の傍に現れた。

「10分しか時間が無いから、急いで調達して来なくては」

機械文化と言えば、せいぜいが剣や魔杖等の武器加工、防具やアクセサリーと云った物しかなく、外界よりもたらされる物に依存する事が多い中、動物的な特殊能力に頼るところもあった。彼女は現在位置記憶というBSのような特定の場所以外にも瞬間移動が行える能力を持つドラゴンを召還した。
そして、この大陸で唯一の釣り場スポットに行くと、釣竿を出し、早速、釣りに掛かった。

「よし!釣るぞ。時間があまり無いけど、〝急いては事を仕損じる〟って言いますもの。慌てず、ゆっくりと。ララランランラーン♪ララランランラーン♪」
佳穂のお料理教室
鼻歌交じりで急ぎ魚を釣り上げると、もといたパルタルカ温泉へと帰り、ドラゴンにお別れを告げると、ルウを呼び出した。

「ここで火を起こしてお料理したら人目を引きそうね。そうだ、この間見つけたヘルラック記念館の近くの誰も居ない篝火のあるところに行きましょう。あそこなら火が灯っていても怪しまれないでしょうから」

佳穂とルウは竹林のウォーシップゾーンゲート、クリスタル採掘場などの風景を眺めながら、時には警備兵をやり過し、篝火のある場所へと辿り着く。

「ルウくん、今からご飯を作るから期待して待っててね❤」
「グルゥ(うん、見張りしてる)・・・」

頑張れ~♪頑張れ~♪ 命燃やして~ぇ♪
続く現実 生きてゆく
頑張れ~♪頑張れ~♪ 限りある日々をロハンで楽しく~ぅ!?

頑張れ~♪頑張れ~♪ 勝ち負けだって~ぇ♪
本当は大事なことなんだね
頑張れ~♪頑張れ~♪ そうさ装備強化は必要さ~ぁ!?

「はーい、出来ました。〝さけのソテー〟!」
「ガゥ(肉じゃない!)・・・」
「ルウくん、食わず嫌いは大きくなれないぞ。ライオンはネコ科なんだから。ほら、ネコはお魚が好きでしょ?たくさん有るから、食べて、食べて」
「ムシャムシャムシャ・・・」
「どうかしら?」
「ムシャムシャムシャ・・・」
「もう!美味しいとか一言くらい無いのかしら!でも、ムシャムシャ食べてるってことは美味しいってことかな?」

食事を終え一休みすると、彼女はまた何やら作り出した。暫くしてから後始末をして人が居た形跡を消してから、最後の観光地、賢者の隠れ家と向かった。ダンスをしたり、犬とじゃれ合ったり、風景画を楽しみながら描いたのである。
そして、その日の夜遅くに懐かしい故郷のヴェーナ、王宮付近の自分の家に帰った。

「ただいま」
「お帰り」
「武者修行の成果はどうだった?」
「ええ、お父さま、アルメネスはとても綺麗な町並みで素晴らしく、パルタルカ温泉なんてとても気持ち良かったですわ」
「まるで、観光旅行にでも行って来たみたいだな?」

((*・・)ヾ⌒☆しまった!つい、本音で語ってしまった)

「お父さま、これからの時代、武芸一辺倒ではダメですわ。佳穂はちゃんと花嫁修業で〝お料理〟や〝お絵描き〟もして来ましたのよ。ほら、食べて、食べて。お土産代わりの佳穂特製“ホヤせんべい”。美味しいわよ」

(まさか〝水中マジック・ショー〟で遊んできましたなんて言えないものね)

「うむ、なかなか珍味だな」
「でしょv(*'-^*)bぶいっ♪」


その後、佳穂の絵がローブ家の居間に飾られたかどうかは謎である。
賢者の隠れ家(ワンちゃん漫画)

Fin


【おまけコーナー】 ― 竹林、賢者の隠れ家(悟りの森)の風景 ―
ウォーシップゾーンゲート(竹林)クリスタル採掘場(竹林)滝(竹林)
賢者の隠れ家(A)賢者の隠れ家(B)賢者の隠れ家(C)





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ある夜、釦を押すと大小様々な窓が現れた。
時々、文字を綴り、繰り返し現れるそれを開け放つ。
時間にすると数分が過ぎ、全ての窓が開かれた。
すると・・・

― ロハン暦350年8月30日(木) ―

竹林

湯煙の中、女は目覚めた。
快適な目覚めではあったが、意識を取り戻すには時間が掛かった。
昨夜遅く、ここパルタルカ温泉に辿り着き、安全な場所と分かると、そのまま旅の疲れで眠りに落ちたのであった。

女の名は〝佳穂〟。
少々、生まれは込み入っており、上流階級〝ローブ家〟の分家の後妻が産み落とした五女である。
生れ乍らにしての類まれな才能は、やがて本家の〝ヒロイン〟の称号を持つ娘達と並び賞されるであろうと周囲に期待されていた。

―この大陸に於いては、モンスター、敵対者とは情け容赦なく戦闘を繰り返すことが一般的であり、また唯一の価値観でもあった。ヒロインとはそれに対する称号であり、当然のことながら、本家のヒロイン達は数多の修行を経て、それを得たのである―

しかし・・・
パルタルカ温泉(ダンス)
「ウッキー!ウキィ、ウッキーィ♪」
「きゃはは。お猿ちゃん、お上手、お上手。もっと、もっと回って!あたしも踊るわ。凄い、凄ーい」
と、修行はそっちのけ、遊び三昧の日々を過ごしていた。

佳穂が目を覚ました時、周囲にはたくさんの猿達が温泉で遊んでいた。
その中の湯口の辺りで騒いでいる猿を見つけると、服が濡れることさえ顧みずに近寄り、一緒になってはしゃぎ始めたのである。
それから数十分ほど猿達と戯れていたが、濡れた服を脱ぎ、湯に浸かった。

― 6日前 ―
「お父さま、暫く、修行の旅に出掛けて参ります」
「うむ、何処に行くつもりだ?」
「以前より巷を騒がしてるPkerの拠点、バラン島に視察を兼ねて行って来ようと思います。敵を知ることは大切なことですから」
「そうか。では〝ルウ〟を連れて行きなさい。5日、5日だぞ。それ以上の敵地侵入は危険が伴うからな」
「はい、お父さま、行って参ります」


ここに立ち寄ったのは5日にわたる長期旅行の疲れを癒す為であった。
普通の旅とは異なり、宿に滞在する事など無く、入浴すら儘ならない―とは言え、湧き水、滝壺、浜辺など、水がある所では汚れた身体を洗い流し、愛用しているフレッシュフローラルの香水で清潔さは維持していた―日々に辟易していたからであり、〝オシャレ〟を重んじるローブ家の風習に他ならなかった。
また、パルタルカの泉質が美肌効果がある炭酸水素塩泉であったのもそのひとつの理由である。
パルタルカ温泉(入浴シーンA) パルタルカ温泉(入浴シーンB)
人心地すると、深くため息を吐き、周囲を見渡した。
「あれ、ルウくん?・・・ルウくん?」

連れのルウ―連れと言っても、彼女のボディーガードとして父が特別に本家と掛け合い、許可をもらったペットのライオンではあるが―が居ないことに気付いたのである。
辺りを見渡すが、陽気な猿達、岩、提灯や竹林しか見つけ出せなかった。
そして、最後に水中を覗いてみた。

「そっか、ルウくん、小さいから頭まで浸かっちゃうんだね」
「ゴボゴボゴボッ・・・」
「ルウくん、凄いね。よく息が続くわ。ねね、今度、あっち、あっちに入ってみようよ」
ザブーン♪
「ブクブクブクッ・・・」

お湯に浸かっては湯冷ましをし、浸かっては湯冷ましを繰り返し続けた。
湯冷ましをした場所には硬い岩に敷かれた竹の皮を薄く剥ぎ、4つ割にした竹を並べた上に、十分に厚くその皮を乗せた物が置かれていて、とても柔らかく、座り心地の良い場所であった。

「それにしても、お腹が減ったなぁ。考えてみたら、レプデカを出てからほとんど食べてないものね」
「ムシャムシャムシャ・・・」
「ルウくんは良いわよね。こうして旅をしてても普段と変わらず、お肉もりもり携帯ペットフード〝美味しい肉〟が有るんですもの」

ふと、先程一緒に遊んでいた猿の隣に陣取っている猿達の方を向いた。
朱色に染められた和傘、竹で作られた桶やタオルなど、よく温泉で見かけるものの中に白い瓶を見つけた。

「あのお猿さん達はお酒を飲んでるけど、一体どこで手に入れたのかしら?」

一瞬、彼女は考え込んだが、直ぐに答えをみつけた。

「そうか、ルウくん、行くわよ」
「ガルゥ(どこへ)?・・・」
「パルタルカの町によ、きっとそこから持って来たんだわ。今夜はご馳走が待ってるわよ!」
ザザーッ♪
「私、着替えるから、ルウくんはあっち向いててよ、一応、男なわけだし。あ、覗いたりしたら、本家のあなたの本当のご主人様、ミリアさんに言いつけるから!。あの人、あんなに可愛い顔してるのに、怒ると凄く怖いのよ。あの鈍器、あれは反則よ、反則。ルウくんなんか一発であの世行き間違いないわね」
「ブルブルブル(きゃぃ~ん)・・・」

残暑厳しい夏の終わりの季節とは言え、ここは北国。
隣国のドラットでは万年雪が降り続けるほどの寒冷地域であり、日が暮れればぐっと気温も下がる。
そこで、用意周到な彼女は外套を持って来ていた。
純白の生地に青いラインが入っており、後ろには水色の生地で装飾が施されたデザインで、胸元は彼女の膨よかな胸をより一層目立たせていた。
手にはローブ家に伝わる業物〝ミリアムスタッフ〟―このスタッフは自由に精霊契約を結べる為、上位モデルの〝ラティメル〟を凌ぐ性能を誇る―を携えていた。

「ルウくん、行くわよ。」

将来を有望視された彼女ではあったが、まだまだ修行の身、対する警備兵の攻撃の凄まじさは十分に聞き及んでいた為、オッドアイとエルフ特有の尖った耳に神経を集中させ、街道から少し外れた竹林を影を潜め、警備兵を迂回しながら町へと近付いて行く。
幸い、佳穂の能力は警備兵のそれを上回り、難なく町の手前まで辿り着いた。
すると、彼女は足を止め、身を屈めて観察をした。

「BSと町の警備兵が1、2、3、・・・人、多過ぎるわ」

―BS(バインドストーン)、このロハン大陸で如何なる場所からも瞬間移動を可能にした〝もの〟。誰が造ったのか、そのシステムの原理等は、全く、分からないが、人々が生まれる以前から大陸に存在していた。大陸を創り出したのが〝主神オン〟であるならば、BSを創り出したのもそうなのかもしれない。この〝もの〟を使用するには乗車券ともいえる〝ポタ石〟が必要であるが、これもまたどこで製造されるのか分からないが、尽きることなくお店で誰もが自由に買うことが出来た。しかし、抗争を繰り返す各種族にとっては、町同様に厳重な警戒をする必要があった為、各統治者は最強の兵士〝警備兵〟を駐在させていたのである―

パルタルカは町とBSが隣接しており、他の種族の町よりも警戒が厳重であった。
彼女は握っていたスタッフに力を込めると、意を決したように呟いた。

「よし!」


次回に続く・・・
バラン島周遊記Ⅱ