グレイサーはアリエスを渾身の力で握り締めるが、忽然と現れた少女の身体を包み込んだピンク色に輝く盾の模様をした光に阻まれて、一向に握り潰すことが出来ずに地団駄を踏んだ。
屋上から華麗に舞い降りたれかんの仕業である。続けて、彼女は二人を包み込むブルーの球体を発生させて怪物の攻撃から身を守った。

「あ、れかんちゃんまで」

ルナは二人と同じようにテレポートで地上まで降りると、グレイサー目掛けて全力で突進し、両足を鈍器で上下左右に攻撃した。しかし、小煩い犬でも扱う様に蹴り飛ばされてしまった。

「まだ、まだあ」

ルナは蹴られても蹴られても挫けずに、何度も何度も怪物に立ち向かって行った。

(ファイトだけはあります~ぅ)

暫くすると怪物の手に握り締められ、まるで揺り篭の中で眠りに落ちていたアリエスは息を吹き返した。

「う、う~ん」
「あ、アリエちゃん、大丈夫?今、助けるからちょっと待っていて」

叩いても叩いても、全くびくともしない怪物相手にルナは奇妙な作戦を思い付いた。

「アリエちゃん、ウィンクよ、ウィンク。ウィンクで悩殺するの!」
「そんなの効くわけないよ」
「良いから早くやってみて」

少女は疑心暗鬼だったが、握り締められて身動きが出来ない状態では他に方法が無かったのでルナの言葉に従った。すると、グレイサーは目をとろんとさせたかと思うと、次は激しく鼻息を荒らして興奮しだした。

(こいつ、ロリコン!?)

興奮した怪物の力はパワーを増し、遂にれかんが作り出すバリアーを破り、少女を握り締めたまま身を翻して何処とも無く消え去ろうとした。

(逆効果じゃん!)

見兼ねたれかんはアリエスに治癒魔法を掛け続け、この魔法に含まれるフェロモンを利用して怪物を刺激した。
再び向きを変えた怪物は今度はれかんを捕らえようと鼻息も荒く口からブリザードの様な息吹を発して彼女を攻撃した。

「きゃあ」
「れかんちゃん!私がこいつを抑えるわ」

ルナは自分の秘策、ウィンクをグレイサー目掛けて連発した。
あは~ん♪・・・うふ~ん♪・・・
だが、怪物は横目でちらりとルナを見ると、蹴り飛ばして、れかんを目指して尚も突進した。

「きゃあ、どういうこと?」

(年齢対象外!)





一方、フリマを見学していた三人は一通り見て回ると、ルナ達を探して屋上に上っていた。

「変ですね、何処にもいませんよ」
「そうね、何処に行っちゃったのかしら?」

二人が首を傾げているとシルが言った。

「あれを見て」
「あ、あんな所に。でも、何でボスと戦っているの?」
「しかも、苦戦してるみたいですね」
「シルくん」

佳穂が目で合図をするとシルは無言で頷き、みんなの移動速度増加呪文ウイングフットを唱えた。

「助けに行こう」
「え、あの、きゃぁ」

シルはダンジョンの螺旋階段をスルスルと滑り落ちるように駆け下り、二人もそれに引っ張られた。
一階の出入り口を抜け、仄かな外灯に照らされている庭に出ると戦闘はまだ続いていて、うめは迷わずにグレイサーに体当たりした。
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「う、うめちゃ」
「ルナさん、頑張りましょう」
「う、うん。でも、アリエちゃを助け出せないの」

緊迫した状況で佳穂は少々、不機嫌気味に叫んだ。

「もう、シルくん!」
「何?」
「さっき私が合図したのは、更衣室で応援用のチア・ファッションに着替えてくるから待っててって意味だったのに。行き成り連れて来ちゃって、私、着替えどうすれば良いのよ?」
「こ、この緊急時に・・・」
「何言ってるのよ、れかんちゃんがいるんだから大丈夫に決まってるじゃないの。仕方ないわ、ここはセーター脱ぎ脱ぎ作戦で」

佳穂は衣装ケースからセーターとチア・ファッションを取り出すと、二枚重ねにして着込んだ。セータは袖は通さずに首だけを通してである。着ていた狐色のカジュアルな服をせかせかと脱ぎ始めると、グレイサーは佳穂を目指して突進を始めた。

「え、何こいつ。私に気でもあるの?」
「何で?こいつ、ロリコンじゃないの?」
「微乳はぁ少女のぉ象徴です~ぅ」
「なるほど!って、それどういう意味かしら?」
「佳穂ちゃ、危ない!」

ルナは果敢に怪物の動きを止めようと攻撃の手を緩めなかったが、何度も何度も胸の辺りを蹴り飛ばされていた。

「ルナちゃん、そんなに胸ばかり痛めたらお嫁に行けなくなっちゃうよ」
「大丈夫だよ、寧ろ、腫上がってセクシーになるさ」
「あれ、知らないの?腫れが引くと萎むのよ」
「ええー、そなの?」
「どっちかというとぉ型崩れですぅ」
「そ、そんなのイヤ、シルくん、バトンタッチ!」
「うん、良いよ」
「やけにあっさり引き受けてくれたわね」
「だって、僕、男だもん」
「ええー!嘘!だって、そのナイスナボディーは?」
「外見は女でも、心は男なんだよ」
「私、自信無くしそう・・・」
「そんな事より、早くアリエちゃんを助けてあげないと」

佳穂は胸のカットがちょっぴりセクシーでスポーティなチア・ファッションに着替えを済ませると徐に言った。

「これでよし。じゃ、そろそろ決着つけちゃいましょう」
「何か秘策でもあるの?」
「勿論。ではでは・・・」
「何?」
「まず、ルナちゃんがうめちゃんの肩を借りてジャンプ。グレイサーの顔面に渾身の一撃を叩き込む。ほら、積み木倒しでも下を叩くより、上を叩いた方が落しやすいでしょう?グレイサーが倒れたら、きっとアリエちゃんを手放すと思うので、アリエちゃんが束縛呪文で動きを封じて、全員で総攻撃なんてのはどうかしら?名付けて、〝積み木倒しでガリバー作戦〟でもやってみる?」
「分かった。やってみよう」

ルナはうめの肩を台にして、上空へとテレポートした。垂直に打ち上げられた身体を捻り、渾身の力で怪物の顔面を叩くと、グレイサーはもんどり打ってアリエスを手放して地面に転がった。

「やった!作戦成功だね」
「ではでは、私は応援歌でも・・・頑張れ~♪頑張れ~♪ 命燃やして~ぇ♪・・・続く現実 生きてゆく・・・」

すると、グレイサーは悲痛な雄叫びをあげて地面を転がり始めた。

「か、佳穂ちゃん、そ、その怪音波は・・・く、苦しい」
「普通に攻撃してくださーぃ」
「そうです。手に持ってる武器は何の為にあるんですか?」
「ああ、これ?これはファッションよ。バックとか持ってないから、何か手持ち無沙汰とでも言うのかしら?効果があるならそれで良いじゃない。皆は耳栓でもして。ほらほら、攻撃、攻撃。総攻撃よ」

ドカドカッ!ドーン、ドーン!グサグサッ!

さすがに強固な身体を持つボス・モンスター、グレイサーも全員の総攻撃の前に息も絶え絶えになった。
すると、遠くから一個小隊ほどの軍馬の蹄の音が近付いて来た。

「あれはエレメンタルの守護隊?」
「今頃、遅いわよ」

兵士達は怪物を見つけると分厚い巨大な鎖を引っ張ってきた荷馬車から取り出すと捕獲に掛かった。

「それ、捕らえよ!」

護送する為に怪物を荷台に載せると、隊長らしい一人が佳穂達の前に歩み寄って来た。

「この度はご迷惑をお掛けしました。警護の隙を突かれて、ダンジョンから脱獄を許してしまいました。日を改めまして、上官よりお礼をさせて頂くと思いまが、皆様のご協力には感謝致します。では、私はこれで失礼させて頂きます」

挨拶を終えると部下に命令を下して、護衛小隊は夜道をエレメンタル・ダンジョンへと戻って行った。

「でも、何で三人がグレイサーと戦っていたの?そんなことは守備隊にでも任せておけば良いのに」
「アリエちゃんが一人で倒しに行っちゃったのよ」
「うんと、ボスを倒すと報奨金が出るので倒そうと思ったの」
「報奨金?そんなのお父さまにでも任せておけば良いんじゃないの?」
「私、ママと二人暮しだもの。生活費を稼がないと」

そこに一人の女性が走り寄って来た。

「アリエ!アリエ!」
「あ、ソフィーヤ。今日は中級ボスを倒したよ。きっとまた報奨金が出るから暫くは安心出来るね」
「まあ、この子ったら。危ない真似をしては駄目と何時も言ってるのに。皆さんにもご迷惑をお掛けしたみたいですいませんでしたね」
「いえいえ、皆、無事ですからご心配なく」
「ほら、大丈夫だよ、ソフィーヤ」
「もう、この子ったら」

Fin



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