「きのぴーとルナちゃんは今朝と〝タイプ〟が違うじゃない。どうしてなの?」
「レンが2人居ても仕方ないからぁ」
「うさ耳とドレスで夜を演出してみたの。こういうのはエルフの方が似合うって佳穂ちゃ言ってたじゃない」
「それはそうだけど、便利なか・ら・だをしてるのね」
佳穂はロビーを抜けて入口に差し掛かると、全員を包む見えない防御壁を魔法で作り出すとダンジョンの中の様子を注意深く窺った。
「皆、下がって!でも、私から離れちゃ駄目よ。シルくん、フット宜しく」
「うん、分かったよ」
「どうしたの?佳穂ちゃ」
「どうしたって、ここはどんな危険な怪物が潜んでいるか分からないダンジョンでしょう。皆、油断しちゃ駄目よ」
「そんなの居ないよ」
「え、そうなの?」
「居ないよ。チラシに〝乙女心を擽る〟って、書いてあるじゃない。怪物に逢いに来る乙女なんていないでしょう。口コミ集めてるって言ってたからそれくらい知ってると思ったんだけど」
「〝キャンペーン〟って、この中にいるボスモンスターを打ちのめして、倒した人が貰える〝懸賞金〟のことじゃないの?」
「違う、違う。佳穂ちゃ、血の気多過ぎ」
「そっか、いつもの私で良いんだね」
「佳穂さんは・・・しっかりぃしてぃるよぅでも〝天然〟なんですぅね~ぇ」
「ま、れかんちゃんまで。今夜の為に魔杖に最高級の集魂石と精霊契約して火力は実質66%増し、スカートだって動き易いようにミニを穿いて来たのに。何だ、損しちゃったわ。危険が無いならとっとと入りましょう」
「あ、でも・・・」
「きゃぁ!」
入口を入り、二、三歩進んだ佳穂の身体は急に冷気に覆われて身動きがとれなくなったかと思うと、巨大な手に強く手首を握り締められて、思わず手にしていた魔杖を落してしまった。彼女は自らの体内の爆発だけで束縛していた冷気を払い去ったが、今度はもうひとつの巨大な手に肩を捕まれ、足を払われて仰向けに転がされてしまった。巨躯は彼女に伸し掛かると手足を押さえつけて、彼女が抗う術を完全に失わせてしまった。
(駄目、殺される)
そう思った瞬間に、巨大な手足は彼女の拘束を解いた。
次の瞬間、彼女は落した魔杖に飛び退り拾い上げると、素早く攻撃呪文を唱え始めた。
「待って!佳穂ちゃ」
「え?」
「お嬢さん、すいませんでした。つい力が入り過ぎてしまったみたいです。普通の方は冷気で束縛すると身動きがとれなくなるので、そこで当店お勧めの品のご紹介をさせて頂いてるのですが、貴女の場合は・・・申し訳ございませんでした」
「大丈夫ですか?佳穂さん」
「ええ、大丈夫よ。でも、びっくりしたわ。シルくんは平気だった?」
「うん、僕はこういうのは平気だから」
「あのね、佳穂ちゃ、これは大手GM社が新規開発した商品の〝デモ〟を兼ねた宣伝なのよ。実際に使えるって事が分からないと誰も購入しようと思わないでしょう?」
「商品?いいえ、そんな事は無いわ。どんな商品かは知りませんけど、これはやり過ぎです。そこの貴方!女性を地面に押えつけて、それから一体何をなさるおつもりでしたの?この事はGM社に厳重に抗議させて頂きますわ。えっと、貴方のお名前は・・・」
「まあまあ、佳穂さん、そのくらいで許してあげなよ。ほら、慣れてくるとあんな感じみたいですよ」
「きゃ~ぁ、怖ぃです~ぅ♪きゃ~ぁ、きゃ~ぁ♪It’s so cool!!ぁははぁ~♪」
叫び声をあげながらも、襲い掛かってくる巨躯の者達に向けて手にしたスプレーのような物から冷気を噴射していた。
「そ、そうね、楽しんでるみたい」
「本当にすいませんでした。お詫びのしるしに、商品なのですがこれをどうぞ」
「え、何ですのこれ。暴漢スプレー〟?」

「まあ、今回だけは許して差し上げますわ」
石畳で敷き詰められた通路、壁には後に彫られたと見られるカラフルな花柄模様や蝋燭が辺りを照らしてはいるもののダンジョンの中はどこか陰湿なイメージがあった。このヴァルゴ・ダンジョンの主催者であるGM社は低コストでの経営を目論み、元々地下牢獄であったこの建物を安く買い取り、一般大衆女性向けに改築を施して、ガールズからヤングミセスをターゲットにした自社商品の販売や催し物を開催し、各地にあるギルドにはフリースペースを開放して交流の場を提供していたのである。ヴァルゴ・ダンジョンの名前の由来はこういうところからであった。また、先程の巨躯な男達の中には元囚人もおり、社会復帰を目指す者に広く手を差し伸べていた。
狭い通路を進んで行くと、音楽の音と何やら人のどよめきの声が聞こえた。
「ここは何のお部屋かしら?」
「ここは月別で催し物があって、今月はファッション・ショーだったかな」
「えー、そんなのもやってるんだ。ねね、見て行かない?」
「もう、私は見たからパスする」
「私も」
「シルくんは、まだ見てないでしょ?一緒に見に行こうよ」
「ううん、僕は今の服が1番気に入ってるからパスするよ」
「そう、残念ね」
「ゎたしは、何度でも見たいですぅ」
「じゃ、一緒に見て来よう」
「はーぃ」
「じゃ、私達3人は向こうの喫茶ルームでお茶でもして待ってるよ」
「うん、分かったわ。じゃ、行こうか、れかんちゃん」
軽快な曲が流れる中、眩いスポットライトに照らされて颯爽と歩き進む美女達はGM社専属モデルもいたが、各町のミス・準ミスも登場していた。着ている服は新作もあれば、旧作もあり、着ている服でモデルかミスかは見分けが出来た。新作のデザインは斬新で素晴らしかったが、旧作は大幅にプライスダウンして即売されていてお買い得商品でもあった。
「どれも素敵ですぅ」
「そうね、私が1番欲しいのは以前、雑誌で見た〝応援ユニフォーム〟なんだけど、この季節じゃ出てないみたいだわ」
「あ、ぁれ凄く良いです。私、買って来まーす」
「あまり無駄遣いしちゃ駄目よ」
「はぁーぃ」
佳穂は走り去って行くれかんを見送り視線をショーの方に戻そうとした時、一人の少女を見つけた。
(あんな小さい子がこんな時刻に一人で何でいるのかしら?)
彼女達がここに入ったのは日が沈み夕食が済んでからであり、少女が一人で外を出歩く時間ではなかった。
不審に思った佳穂は思い切って少女に声を掛けてみた。
「今晩は、お嬢ちゃん、今夜は一人でここに来たの?」
「こんばんわ、ソフィーヤと一緒だよ」
「ソフィーヤ?」
「うん、わたしのママ」
(自分のおかあさんを名前で呼ぶんだ。少し変わっているのね)
「ソフィーヤさんは何処に行ってしまったの?」
「ソフィーヤ、迷子になり易いから何処かに行っちゃったの」
「じゃ、お姉さんも一緒に探してあげようか?」
「ううん、大丈夫だよ。こういう所に来ると何時も離れ離れになっちゃうの。だから離れちゃった時は別々に見て回って出口で待ち合わせることにしてるの」
「そう、ねね、良かったら私と一緒にあっちでショーを見ない?一人より二人の方が楽しいでしょ」
「うん、良いよ」
「えっと、お名前は・・・」
視線を少女の胸元に向けると、この界隈のアカデミー中等部の女学生が身に付けているウサギのデザインをあしらったネームプレートを見つけた―〝Alies〟―
「アリ・・・エス、アリエスちゃんね。私は佳穂。宜しくね」
「うん、よろしく」
そこに、大きな手さげ袋を抱え込んだれかんが戻って来た。
「戻りましたぁ。もう、欲しい物ばかりで、ほんとぉはぁ10着くらい買いたかったんですけどぉ、3着にして来ましたぁ♥」
「ずいぶん欲張ったものね」
「あれ、この娘は?」
「この娘はアリエスちゃん。おかあさんと一緒に来たんだけど離れてしまったみたいなので、出口まで一緒に見て回ることにしたのよ」
「こんばんゎ、れかんです。よろしくぅ」
「よろしく、お姉ちゃん」

ファッション・ショーはダンジョンをイメージした鎧武者の服装やこの深まる秋の季節に新作コートの発表があり、どれも目を奪われるほど素敵な物を取り揃えていた。そして、最後には女性の永遠の憧れ〝ウェディングドレス〟が登場して幕を閉じた。
「さて、そろそろ皆と合流しましょうか」
「はぁーぃ」
3人は催し物会場の出口へと向かったが、不意にれかんは足を止めてつぶやいた。
「ぅ~ん♪アリエス?・・・何処かで聞いた事がある気がします~ぅ」
次回に続く・・・
『ID〔VIRGO DUNGEON〕後編』
初コメント
小説に出していただいてありがとうw
名前: 子連れのDK [Edit] 2012-10-25 20:13
子連れのDKさんへ
思いついたのが〔かほ小説〕にG/PTチャ、テルなどをいろいろ盛り込んでしまえ~♪
なのですo(*^▽^*)oあはっ♪
名前: 佳穂(かほ) [Edit] 2012-10-25 21:29
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名前: - [Edit] 2012-10-29 05:32
早朝のアンチ・マクロス派の方(仮名)へ
ただ、おっしゃってることをご判断した根拠が記載されていなかった事を残念に思います。
単純に朝も夜もなどの理由だけ(単に“頑張り屋さん”?)では判断できないと思います。
白チャで確認する等の行為はされたのでしょうか?
この件に関しましては片手落ちを避ける為、自身、本人確認の上、判断したいと思います。
こう記述すれば、私(ボヌール)の方針はご理解頂けたでしょうか?
ずっといたら違ったということです(本人の“名誉”もありますから)
それと、記事とは無関係なのもちょっぴり残念><
ゲーム内でもメールで連絡は可能でしょ?
ここが連絡とりやすかったのかなo(*^▽^*)oあはっ♪
でも、ご親切にありがとうございました。
名前: 佳穂(かほ) [Edit] 2012-10-29 17:06
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