長い髪を指で掻き揚げると不意に少女の身体は屋上より消え去り、次の瞬間には地上に舞い降りていた。

「ア、アリエちゃ、危ない。早く戻って!」

ルナの制止を余所にアリエスは薄明かりに照らされて輝く銀髪をなびかせてボスに向かって走って行く。
少女の脳裏にはポップな曲が鳴り響き、一気に精神力が高まった。
何時の間にか両手には鈍器と盾を持ち、ボスの手前まで近づくと、正面にテレポートした。
ボスが小動物を感知する前にアリエスは左右に鈍器を振り回す。軽快な音と共にボスの両足にヒットしたが、一向にダメージを受けた様子はなった。
今度はボスが巨大な手を少女目掛けて振り回した。少女は一撃目を華麗なステップで躱したが、強烈な風圧でよろけたところに、二撃目が襲い掛かってきた。盾で防いだものの、少女の身体は遥か彼方に吹き飛ばされてしまった。

「きゃぁ、こ、こいつ、強い!」

屋上で見ていた二人はこの光景に唖然としていた。

「あの娘は一体?」
「ぁたしぃ、思い出しました」
「え?」
「下級エレメンタルに賞金稼ぎに行ってる女の子がいるって。確かぁ~、その娘の名前はアリエス。エイリアスは小悪魔アリエ!」
「小悪魔?投げキッスでもして倒すの?」
「さぁ?」
「でも、あれはどう見ても中級のボス、グレイサーだよ。まさか知らずに突っ込んだ?」
「えぇ!?」

アリエスは左右にしなやかなステップを踏み、グレイサーの両手の攻撃を躱して行った。
少女は相手の近くまで来ると、宙を舞った。しなやかな身体は弧を描き、足元に着地すると十分にバックスイングされた鈍器を渾身の力を込めてスイングした。鈍器は怪物の身体にめり込んだ。
しかし、獰猛な怪物はぴくりともせず、薄ら笑いを浮かべ、拳を強烈な風圧と共に真下に振り下ろす。
少女は咄嗟に地面を蹴り躱したが、鈍器を手放し横転した。地面に突き刺さった拳はすかさず引き抜かれ、少女の身体を掴み持ち上げた。
徐々に力が込められ、少女の両腕の骨が軋む。

「うゎあ!」

(ごめん、ソフィーヤ。また、一人にさせちゃうね)

薄れ行く意識の中、少女はそんなことを考えていた。





―7年前、クレア工房近辺―

ヴェーナとアインホルンを結ぶ街道の西側の眩い光に覆われた場所に一人の幼い少女が居た。
ドカッ!ドカッ!

「ふう、やっと倒せた」

少女はヴェーナの町の武器職人ナルセスの依頼で、材料集めの為に自分の背丈の数倍はあろう怪物を倒していた。

「まだ材料が足りないや。もっと、たくさん倒さなくちゃ」

そこへ一人の若い女性が通りがかった。
彼女の容姿は肌の色は青く、背鰭のようなものを付けており、当時、この界隈では見掛けない遥か彼方の北の楽園アルメネスの出身である事が一目瞭然であった。

「こんなところで何をしてるの?」
「ウルスを倒して武器の材料を揃えてるの。良い稼ぎになるんだよ」
「貴女みたいな小さい子が?」
「うん、私、孤児だから自分でお金を稼がないと暮らしていけないもん」
「じゃ、お姉さんが手伝ってあげようか?」
「ううん、大丈夫だよ。この眩しい光でウルス達はお友達と思って無いみたいなの。一体ずつ倒せば危ない事無いから平気なの」
「まあ、そう言わないで任せなさいよ。私、意外と強いのよ」
「ありがとう、おばさん」
「お、おばさん??」

日が沈む頃には武器職人に依頼されただけの材料が揃ったが、ヴェーナの町に戻るには晩くなってしまったので二人はクレア工房で野宿することにした。
焚火を熾して暖を取り、質素な食事を済ませた。

「貴女は何で孤児なの?」
「・・・」
「話したくないか。私もね、天涯孤独の身なんだ。流れ流れてここまで来ちゃったけど。ねえ、ヴェーナに着いたら案内でもしてくれる?」
「うん、良いよ、おばさん」
「そのおばさん言うのは止めてよ。私、まだお嫁にも行ってないのよ」
「じゃ、ママ?」
「ううん、お姉・・・」

女は少女の眼差しを見て取るとそれ以上言う事を止めた。

「私はデカンのソフィーヤ。貴女のお名前は?」
「私はエルフのアリエス」
「じゃ、宜しくね。アリエスちゃん」
「うん、ソフィーヤ…ママ」

何時の間にか少女はウルスとの戦いの疲れで、ソフィーヤの膝元ですやすやと眠っていた。





グレイサーの目が不気味に輝き、最後の力が込められようとしていた。


次回に続く・・・
『ID〔VIRGO DUNGEON〕完結編』



失恋!?

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